本書は大学での卒業講演など9編をまとめたもの.ヴォネガットは,日々の小さな幸福を自覚すること,思いやりをもって生きること,そしてコミュニティの中で人と関わり合って生きることの大切さを繰り返し説く.これらの主張は極めて素朴で,要するに“大人”になれ,と言っている.これから社会に出ようとする希望に満ち溢れた若者たちが,これらの講演を聞いて何を思ったのかはわからない.しかし,そのような当たり前のように思えることこそが,人生で最も重要なのだと,気づくときが来るのかもしれない.人生とは,そんなものなのだと.
本書では,全ての見通したかのような視座に立ってユーモアたっぷりに語りかけるヴォネガットの声を,円城塔の翻訳を通じて聞くことになる.ヴォネガットの言葉と円城塔の言葉が重なり合う一文を探して読む楽しみもある.円城塔からヴォネガットを読み始める方には,ぜひこの本から読み始めることを勧めたい.
本稿は《SFマガジン》2022年12月号(2022.10)に掲載された書評の再録である.