中国SFの中でも,日本で特に人気のサブジャンルである中国史SFを七作収録したアンソロジー.壮大なスケールを誇る中国史に,これまた壮大な世界を描くSFが組み合わされるのだから,面白くないわけがない.“もし”のない歴史に,“もし”を描くSFが加わるのだから.
魯迅+ウェルズ『タイムマシン』という組み合わせの宝樹「時の祝福」,日中戦争下の抑圧された上海で時間遡行する人々を描く韓松「一九三八年上海の記憶」はその好例と言える.これらはどちらも近代以降を舞台とした作品であり,中国が経験した厳しい歴史を生きる人々に焦点をあてている.
一方で,不真面目(?)な歴史SFも収録されている.馬鹿SFで人気の馬伯庸「南方に嘉蘇あり」だ.本作は中国におけるコーヒー史を虚実織り交ぜて巧みに書き上げた大傑作なのだが,あまりに巧みなので評者含め部外者にはその嘘と史実の見極めがまったく出来ないほど.初読時は素直に騙されて楽しみ,正しい知識をつけてから改めて読み直して流麗な嘘に舌を巻くなど,複数回楽しむことが出来る.
また,巻末には編者による中国史SFの概要と作品解説を収録.各作品の時代背景や登場人物に関する参考文献も多数挙げられており,ここから中国史へと踏み出すことも出来る.日本と中国の共通点と相違点を楽しみながら,中国に関する理解を深めることが出来る一冊.
本稿は《SFマガジン》2022年6月号(2022.4)に掲載された書評の再録である.