キム・チョヨプ『わたしたちが光の速さで進めないなら』


書誌情報


書評

短篇SFを七作収録した韓国の作家のデビュー作.作者は大学院で生化学を専攻.その知見を活かした,人間性を物質に還元するようなガジェットが作中に登場する点ではグレッグ・イーガンと共通するが,両者の人間性に対する姿勢は大きく異なる.異常なまでの物質還元主義を徹底して絶対的な結論を明示するイーガンに対して,作者は生化学の知識を背景とした理知的な理解を持ちつつも,それに対する人間的直感に基づく反発の間で揺れ動く心情に寄り添おうとする.

この作品集を通じて描かれるのは,未来の社会における偏見や差別といった問題だ.それらの問題は科学技術の発展によってもたらされ,そして原因となっているそれらの技術の中には,さほど遠くない未来に実現しうるものも含まれている.これらを扱う物語はもはやSFを導入せずには語りえず,むしろSFだからこそ普遍性を獲得していると言えるだろう.


書評メタデータ

本稿は《SFマガジン》2022年6月号(2022.4)に掲載された書評の再録である.


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