本書は中国に初のヒューゴー賞をもたらした「北京 折りたたみの都市」をはじめ七篇を中国語から直接翻訳・収録した短篇集.郝景芳は天体物理学で修士号を,経済学で博士号を取得した異色の経歴の持ち主.その経歴と知見は創作に大いに生かされ,物理学と経済学とを横断しつつ中国社会をその内部から捉えようとする意欲的な作品が複数収録されている.とはいえ,収録作がすべてはじめからSFを書こうとして書いた作品であるかというとそうではなく,むしろ現代中国社会を丹念に描こうとした結果,SF的手法を用いるのがもっとも適していた,というような気配を読み取れる.こんな感じでいたって真面目な作品ばかりなのかと思いきや,締切に追われるダメ大学院生を面白おかしく描くショートショートSF「先延ばし症候群」が巻末に控えているのが微笑ましい.国を隔てて変わるものと変わらないものの対比が鮮やかに浮かび上がる一冊だ.
本稿は《SFマガジン》2020年12月号(2020.10)に掲載された書評の再録である.