一九五〇年代の雑誌黄金期に書かれた未発表作品を14編収録した短編集.サスペンスやSFの趣が強い作品から王道の短編まで,幅広い作風の作品が収録されているが,最も驚くべきはこれらの作品が未発表であったということだ.他の短編集と比較しても作品の出来は遜色なく,他の作家の初期未発表作品に求めるような,荒削りな才能や稚拙さというものは全く感じられない.むしろ,読み手をよく理解し,需要に対して適切な技巧をもって答える熟練の作家という像が見えてくる.
やさしい皮肉,誠実さの称揚といったヴォネガットらしさを楽しめる一方で,クセは少なく,非常に読みやすい.この読みやすさも,本書の収録作を未発表作品らしくないと感じさせる一因だろう.ヴォネガットの短編を読む際は,ぜひ本書も忘れずに読んでいただきたい.円城塔による巻末解説も必読.
本稿は《SFマガジン》2022年12月号(2022.10)に掲載された書評の再録である.