学部入学以降付けている読書録からの抜粋その19.すべてノートに万年筆で一発書きなので文章はところどころで破綻しているが,それも当時の味ということで.コメントは現在のもの.
政宗の浅さがしばしば指摘されているのが面白い.葛西大崎一揆以外にもさまざまな蜂起に絡んでいたらしく,しかもことごとく関与が露見しているのがさらに面白い.10年早ければなどという人がいるが,10年早ければ上杉・佐竹に狩られていたのが相場だろう.そもそも東北がぐだぐだすぎる.外交と戦争と調略は下手糞極まりないが,中世大名から近世大名へと移行した唯一の大名という点で非常に面白い.内政は本当に優秀で,今日の仙台があるのは全て政宗のお陰である.
伊達政宗といえば奥州の戦国大名で一番有名だが,有名な割には負け戦がやたらと多く,そもそも伊達家が政宗の曽祖父稙宗以降,稙宗-晴宗-輝宗-政宗と他家*1を巻き込んだ盛大な親子喧嘩を繰り返し続けて東北全土が荒れに荒れまくっているので,非常に背景が複雑で評価が難しい大名でもある.
とはいえ,色々あったものの戦国時代を生き延び,創業者世代が一掃された3代将軍家光の時代まで奥州に君臨し続け,仙台の街を作り,地場産業の育成に努め,料理をはじめとした文化芸術を振興したことをみれば,十分に名君だったと言えるのではないか.少々野心が強すぎたのと,対外的な能力が怪しい(とはいえ相手が最上・南部・上杉・佐竹では可哀想な気もする)のは確かだが,戦国から江戸にかけて,無事に生き延び現代まで家名を残したという唯一の業績をもつ大人物であることも確かだろう.
死なずに生き延びることの重要さを知ることが出来る人物.
こちらが番号順で若かったので.一番はやはり円城塔「ムーンシャイン」,ついで高野史緒「G線上のアリア」,新城カズマ「月を買った貴婦人」.歴史改変ものは面白い.とりあえず全部読んでみて,はずれが全くないのは素晴らしい.ほぼ全て掘り出してきたものだというのに.そして伴名練が円城塔作品の中から「ムーンシャイン」を選ぶのは分かる気がする.おそらく一番わかりやすく視覚的だから.そして巻末の編集後記の丁寧さ.
つくづく,伴名練は初心者に非常にやさしい人だと思う.自分もこうでありたいが,専門にしているものがものであり,また自分に求められていると思うものが解釈や研究の方面だと考えているので,なかなかそういう機会や動機がない.
なにもわからない平野にポンと投げ出されて,自分なりに探っていくのもSFの魅力であると思うし,なによりもSFは難しいという思い込みがブランドになっている気もするので,そこらへんはまあ適当に,という感じもする.
この本に収録されている円城塔「ムーンシャイン」の解説記事を書いて,それがそこそこ話題になったのでちょっと思い入れがある一冊.
一番は石黒達昌「雪女」.当然といえば当然だが.この2冊を通じての本体は,巻末の詳細な後書きだろう.流石にここまできてこれが勉強になりましたとか俺が言ったら切腹ものだが,世間で非常に高く評価されているのが驚き.これだけ情報を詰め込んでも,かえってそうだからこそ,求められているということか.いわゆる王道SFではなく,恋愛・怪奇と軸をずらしてきたのは意図的だろう.
巻末の解説がほんとうに充実していて,当時もっとも初心者が手にとるであろう本にこれだけの情報を詰め込んだのは,素晴らしいことだと思う.10年20年経って,ここからSFに入った人たちがどれほど出てくるのだろうか(それとももっと早いだろうか),楽しみでならない.
そして,いわゆる王道SFではない作品を軸にアンソロを編んだ意味を考えてしまう.これについては,伴名練「全てのアイドルが老いない世界」の解説記事に少し書いたので,そちらを参照いただきたい.
この本は良くも悪くも明確な方向性の薄い傑作選.アラカルトとも言え,混ぜこぜとも言え.一番は無論円城塔「文字渦」で,次いで長谷敏司「allo, toi, toi」.田中啓文「怪獣惑星キンゴジ」も面白かった.あと仁木稔「ミーチャ・べリャーエフ」もよかった.
一番よかったのは当然ながら小川哲「バック・イン・ザ・デイズ」.次いで藤井太洋「従卒トム」.高山羽根子「うどん キツネつきの」は何か仕掛けがあるとか聞いたが,全くわからなかった.野崎まどは『ファンタジスタドール・イヴ』もよかったし,思っていたより合わないわけではないかもしれない.三方行成『トラヒュ』の後半がダメだったという印象は,巻末の大森のコメントが裏付けてくれたように思う.
ときにはわからないこともある.コロナ禍なので,人に聞く機会もなく,分からなかった箇所はそのままになってしまっている.聞ける場がある人は,それを大事にして,そこにいられる間に活用しきってしまった方がいい.
本稿ははてなブログ版SF游歩道から保存した.保存にあたって,表記の統一のため,一部修正を行なった.